見過ごされやすいばね指の原因

 

🔹背景:ばね指の一般的な原因

 

 

通常、ばね指(トリガーフィンガー)は以下が主な要因とされます。

 

  • A1プーリー部(MP関節部)での屈筋腱の肥厚や炎症(他のA2,A3などでも起きることはある)

  • 屈筋腱鞘の滑走不全(摩擦増加)

  • 手の反復動作や過使用

  • ホルモンバランスや糖尿病などの全身要因

 

 

これらが腱と腱鞘の滑走不全を起こし、屈伸時の引っかかりが生じます。

 


 

 

🔹見逃されがちな「アライメント(指の軸のズレ)」の影響

 

 

ばね指は単純な局所炎症ではなく、

力学的ストレスの偏りによっても引き起こされることがあり、

この点が意外と見逃されます。

 

 

✅ 側方変位(指が外側や内側に曲がる)で起こること

 

 

  • 屈筋腱がプーリーに対して斜め方向に引かれる

  • プーリーとの摩擦が一部に集中

  • 腱鞘内の通過経路がわずかにねじれる

  • 結果として、局所的な摩擦・炎症・肥厚が進みやすくなる

 

 

特に以下のようなケースでは注意です:

 

  • 手のひら側の筋膜や腱膜の緊張・癒着

  • MP関節やPIP関節の軽度の外反/内反

  • 手内筋(虫様筋や骨間筋)のアンバランスによる偏位

  • 手根骨や中手骨の配列異常(手根管や腱滑走路に影響)

 

 


 

 

🔹臨床的に見逃される理由

 

 

 

  1. 画像検査では“炎症”や“肥厚”は見えても、

     腱の走行の偏位や力学的ズレは見えにくい。

  2. 局所(A1プーリー部)に痛みが集中するため、

     根本のアライメント不良が注目されにくい。

  3. 手指の使い方や姿勢(把持パターン)を評価する習慣が少ない。

 

 

 

 

 

  • 指軸の整列(特にMP関節~PIP関節)

  • 手のひら全体の筋膜テンション

  • 手内筋の左右バランス(特に母指・小指側)

    をチェックすることで、再発予防や治療効果の向上につながります。

 

 

🔸側方変位によるばね指 ― 評価とアプローチ

 

 

 

① 評価:見逃されやすい“力の流れ”と“指軸ズレ”

 

 

 

▶ 指軸アライメント

 

 

  • PIP関節・DIP関節の外反/内反を確認

     → 軽度でも屈筋腱走行が斜めになり、A1プーリー部に一点集中の摩擦が起こる。

  • 中手骨頭の傾き(母指・小指方向への偏位)を観察

     → MCP関節での屈曲軸がずれ、屈筋腱の通過経路が変化。

 

 

 

▶ 触診・滑走テスト

 

 

  • 指を軽く屈伸させた際に、A1プーリー部で腱が片側に寄る感触があるか確認。

  • 腱鞘の内外どちらにテンションが強いかを触知。

  • 掌側腱膜(特に第3・4腱索)との滑走差を感じ取る。

 

 

 

▶ 全体アライメント・連動評価

 

 

  • 手根骨配列(舟状骨・有頭骨・豆状骨)にねじれがあると、腱走行に影響。

  • 手関節~前腕の回内外偏位も腱のテンションを変える。

  • 手内筋(虫様筋・骨間筋)の緊張差を観察。

 

 


 

 

② 原因の捉え方:構造的ではなく「滑走経路のねじれ」

 

 

 

🔹典型的なパターン

 

 

  • 手指が軽度の外反/内反位で使用され続ける

  • 屈筋腱がA1プーリー部で斜めに進入

  • 摩擦・炎症 → 腱・プーリーの肥厚

  • ばね現象(弾発)や疼痛を誘発

 

 

👉 つまり、**腱自体よりも“走行ラインの歪み”**が慢性化の原因になる。

ここを修正しないと、局所注射やストレッチ後も再発しやすい。

 


 

 

③ アプローチ(筋膜リリース・モビライゼーション)

 

 

 

▶ 手のひら側筋膜リリース

 

 

  • 母指球筋膜・小指球筋膜・掌腱膜の滑走を整える。

  • A1プーリー近位部で腱の滑走経路を解放するように軽い剪断ストレッチ

  • 縦方向だけでなく、軽い横方向リリースを加えると側方偏位を修正しやすい。

 

 

 

▶ 手内筋のバランス調整

 

 

  • 第1背側骨間筋・第3掌側骨間筋など、偏位方向に引く筋をリリース。

  • 虫様筋リリース:中手骨遠位〜腱膜移行部を軽くモビライゼーション。

     → 指軸の正中化と腱テンションの再分配につながる。

 

 

 

▶ 手根部~前腕への連動調整

 

 

  • 手根骨の掌背方向モビライゼーションで屈筋腱の通路を整える。

  • 前腕屈筋群(特に浅指屈筋・深指屈筋の筋膜間)をスライドさせるようにリリース。

     → 遠位部へのテンション伝達を均一化。

 

 

 

▶ 動作再教育

 

 

 

  • 側方偏位を助長する把持(親指の過度内転や小指過外転)を修正。

  • 指先でつまむ動作では、第2・3指の軸が正中線上にあるかを確認。

  • 軽い抵抗下での屈伸トレーニングにより、滑走パターンを再学習